J・G・バラード 『クラッシュ』

その昔、ニューウェーブSFというジャンルがあって、その代表的な作家にあげられるのがバラード、らしい(あんまり詳しくない)。それまでのテクノロジーとか未来とか宇宙っていうテーマから、もっと人間の内面に焦点を移したSFがそう呼ばれていた。一部では「文学かぶれのSF」とか揶揄されてたそうな。

で、この『クラッシュ』。前に読んだ『結晶世界』がきれいめだったので油断してたら、とんだ変態小説だった。登場人物はみんな、自動車事故とその痛々しい痕跡に病的に固執し、性的に興奮するパラノイアばっかり。読んでると背筋に悪寒がするほど詳細な、事故による人体損壊の描写は「もうやめてー」状態。それがいかにセックスと結びつくのか、これまた丁寧に詳細に書かれる。うわあ。SFの役割について、挑戦的でかっこいい序文からは想像もつかない。

ぼくたちを取り巻く文明はすべからく偏執狂的なのじゃ、とか、そういう分析はできるんだけど、そういうのはこの文章の迫力の前には無意味な感じ。ドン引きしながらページをめくって味わうイヤーな感触は、ちょっと他にない。

syrup16g, Ringo Deathstarr, The Depreciation Guild

久しぶりのレコード。つってもiTunes Store。

syrup16g – Copy, Delayedead

iTunes Storeでplusで買えるアルバムを2枚購入。もう解散しちゃった日本のオルタナバンド。由緒正しい欝ロックですばらしい。今さらですいません。「生活」がほんとに最高。

Ringo Deathstarr – SPARKLER

バンド名で吹いてしまう、去年ファーストが出たシューゲイザーバンド。由緒正しいシューゲサウンド。シューゲイザーってポストロック/アンビエント系と轟音ポップ系に大きく分けられると思うんだけど、Ringo Deathstarrは後者。演奏が下手なのもすばらしい。

The Depreciation Guild – In Her Gentle Jaws

キャプテンミライさん推薦のチップチューン+シューゲイザー。これが結構はまっててびっくりする。ポコポコしたせわしないリズムマシン(たぶん。もしかしたら電子ドラム)が最高。こういう男性ボーカルのボカロ、どっか作りませんか。

Stapleton – Rest and Be Thankful

Twitterで知ったグラスゴーのすてきなロックバンド。新しいバンドかと思ったら、10年以上やってるベテラン。アルバムは現時点で最新の2008年リリース。サウンドはちょっと変拍子入ったインディーロックで、シンプルなんだけどセンチメンタルな曲調がすてきすぎる。真似したい!

コーマック・マッカーシー 『ブラッド・メリディアン』

マッカーシーの小説はびっくりするほど暴力的。『ブラッド・メリディアン』は19世紀のアメリカとメキシコの国境付近が舞台なんだけど、全編ひたすら荒野、死体、暴力。死のにおいがしないページは1ページもない。すごい。それもウェットな暴力じゃなく、圧倒的な力で押し潰されそうな暴力。

括弧なしの会話だったり、句点なしに長く続いたり、心理描写がまったくなかったりという文章は読みにくいけど、その読みにくさが幻想的なイメージを演出してて、独特の読書感になってる。翻訳も大変だったろうな。

感情移入して楽しむ物語とは違うけれど、おすすめ。こういう人の書く小説が200万部も売れるアメリカってやっぱりすごい。