J・G・バラード 『クラッシュ』

その昔、ニューウェーブSFというジャンルがあって、その代表的な作家にあげられるのがバラード、らしい(あんまり詳しくない)。それまでのテクノロジーとか未来とか宇宙っていうテーマから、もっと人間の内面に焦点を移したSFがそう呼ばれていた。一部では「文学かぶれのSF」とか揶揄されてたそうな。

で、この『クラッシュ』。前に読んだ『結晶世界』がきれいめだったので油断してたら、とんだ変態小説だった。登場人物はみんな、自動車事故とその痛々しい痕跡に病的に固執し、性的に興奮するパラノイアばっかり。読んでると背筋に悪寒がするほど詳細な、事故による人体損壊の描写は「もうやめてー」状態。それがいかにセックスと結びつくのか、これまた丁寧に詳細に書かれる。うわあ。SFの役割について、挑戦的でかっこいい序文からは想像もつかない。

ぼくたちを取り巻く文明はすべからく偏執狂的なのじゃ、とか、そういう分析はできるんだけど、そういうのはこの文章の迫力の前には無意味な感じ。ドン引きしながらページをめくって味わうイヤーな感触は、ちょっと他にない。

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