ジョージ・オーウェル『一九八四年』

ディストピア小説といえばこれ、という歴史的小説、なんだけど読んだことがなかった。イギリスでも「読んだふりをしてる本」のランキング堂々一位だそうで、なーんだみんなあんまり変わらないな! という。ちなみに新訳版。

とにかく徹頭徹尾いやな気持ちにしかならない。中盤の恋愛展開も死亡フラグ立ちまくりで「もう見てらんない」感じなんだけど、第三部の洗脳シーンはさらに上をいくインパクト。子供が親を告発する下りなんかも非常にリアルで寒気がする。子供は狂信的なゲーム大好きですよね。

ビッグ・ブラザー率いる党の支配するオセアニア(南北アメリカとイギリスを合わせた国家)は、ソビエトなんかの社会主義的な独裁全体主義国家を連想させるけど、描かれているのはもっと複雑なシステムだ。原著が出版されたのは1949年で、所々古さを感じさせる部分はあるけれど、それは些細なことだ。権力に対する洞察は強烈に心をえぐってくる。そもそもビッグ・ブラザー自体が、B級SFの独裁者的なそいつを倒せば世界が変わるという、わかりやすい悪役ではない。

劇中で使われる言語、ニュースピークでいう「二重思考」が非常に重要なキーワードになっていて、人間の認知や自己欺瞞への鋭い洞察になっている。オセアニアでは政治状況が変わるたびに歴史資料が全部書き直されるんだけど、その改変を把握したうえで党の公式発表を完全に信じるという、まさに二重の心理を指す。あり得ないと笑っていられないのは、現実にすごい頭のいいインテリが、変な宗教にはまっちゃうなんてことがあるからだ。オーウェルはよくわかってる。

いやになるくらい悲劇なんだけど、ぜひ一読をおすすめ。決して頭でっかちな理屈小説じゃない。

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