Kings Of Convenience – Riot On An Empty Street

Kings Of Convenienceはノルウェーのアコースティック・デュオ。ラジオでかかってたシングルの「Misread」がとても良かった。基本アコースティックギターとボーカルなんだけど、ちょこちょこ他の楽器が入る。センチメンタルさがたまらない。ちょっとSimon and Garfunkelっぽい。

ピアノのリフが印象的な「Misread」がやっぱりいちばんいいかな。

スディール・ヴェンカテッシュ 『ヤバい社会学』

抜群におもしろくて、悲しい本。社会学者のヴェンカテッシュさんが、シカゴのギャングと文字 どおりつるんだ回想録。名著『ヤバい経済学』でネタになってた話が本になったもの。

のっけっからむちゃくちゃで、大学院で論文を書くネタにするため、地元のギャングが仕切る黒人のゲットーに、若きヴェンカテッシュさんが単身アンケート用紙を持って飛び込んでいくところから話がはじまる。変わったよそ者だってことで運良く仲良くなり、日常生活を一緒に過ごすようになる。ヤクの売人とギャング、貧困黒人コミュニティの日常が生き生き描かれる、っつーか全部実話。

貧乏コミュニティのどうしようもない現実には、読んでて涙が出てくる。親密な「家族」の連帯と助け合いにセットになっているのは、お約束の序列と身内びいきと賄賂と脅しに密告。『三丁目の夕日』なんかじゃ取り除かれてる、コミュニティの暗い面だ。コミュニティのリーダー——この場合、ギャングのボスや自治会長——は保護を与える一方で、メンバーから搾取する。時代劇によく出てくる、やくざの親分が仕切る宿場町ともイメージが被る。社会の普遍的な問題なんだな。

これはぜったい読むべき本。感想が好きでも嫌いでも構わない。

ウィリアム・ギブスン 『スプーク・カントリー』

絶版だらけで、そろそろ知る人も少なくなった80年代のサイバーパンクSF。その代表作家、ウィリアム・ギブスンの新作。もう還暦なんだね。角川から早川に出版社が戻ったけど、文庫じゃなくてハードカバー。

今回も三部作みたいで『スプーク・カントリー』は前作『パターン・レコグニション』と同じ21世紀の現代を舞台に展開する。9.11もiPodも登場する。構成は3人の主人公が章ごとに入れ替わる、おなじみのギブスン節。そのうちメインの主人公は、人気インディーバンドのボーカルで、バンド解散後ジャーナリストの仕事をはじめたホリス。彼女が新世代マーケティング企業〈ブルー・アント〉から、GPSとバーチャルリアリティを組み合わせた臨場感アートの取材をするように依頼されるのだが、それは実は秘密の陰謀と関わっていて……と、要約すると最後に敵味方で対決するような、よくあるパターンのミステリーものに思えるんだけど、そういう期待はもちろん裏切られる。システマ(ロシアの格闘技)の使い手で謎の組織の工作員チトー、政府の捜査官らしきブラウンに引っ張り回され、ロシア語やヴォラピュク語(ドイツの神父が作った人工言語)の翻訳をさせられてるジャンキーのミルグリムと、他の主人公がそんな感じだから余計そう思ってしまうけど。

あんまり評判のよろしくない(ぼくは好きだが)90年代の三部作からの傾向だったんだけど、巨大なプレイヤーが争って世界を改革していくような要素はすっかりなくなってしまった。90年代の三部作ではそれでも何かこじつけのようにオチがつけられていて、それが微妙な残念感を漂わせていたんだけど、『パターン・レコグニション』以降はそのカタストロフィへの期待を逆手にとって、意識的にずらしてる。

ずれてるのは現代の情景描写もそうで、最近のものなんだけどなじみのあるガジェットを再定義したり、珍しいアイテム(システマとかヴォラピュクとか)を投入したりして、なんとなくつかみどころのない不思議なイメージを作ってる。舞台になってるアメリカの町の知識があるとなおさらなんじゃないだろうか。はっきりしたことはいえないけど。これはキャラクターにも当てはまって、所属も動機も微妙に曖昧なキャラが多い。でも権力はある、みたいな。『スプーク・カントリー』ってタイトルはかなりストレート。

「うおー」ってくる熱さはないけど、じわじわニヤニヤくる名作です。風景の描写はギブスンの特殊スキル、すごいイメージ力です。やっぱりギブスンには勝てる気がしない。

GRADO SR60

GRAD SR60

ずっと気になってたGRADOのヘッドフォンを買ってみた。普通のシリーズでは一番安いSR60。使いはじめてまだ1週間なので最終的な結論は出せないけど(エージングは1週間で50%、完全に終わるには1か月くらいかかるとマニュアルにある)、ダイナミクスに敏感なとてもよい音がする。期待以上、驚き。

まず、見た目。事前の情報収集で作りの雑さにはあちこちで言及があったので、どんなもんかと思っていたのだが、思ったより普通。ちゃっちいっていうより、細かい仕上げを気にしてない。無骨。確かに1万円するヘッドフォンには見えないけど。作りのシンプルさは軽量化のためらしい。対照的にケーブルはごつい。

装着感。イヤパッドは普通のよくあるタイプに変更されたみたいで、サイトの写真の、評判の悪かった切り込み入りのものとは違う。耳を押さえるタイプなので、本体はすごい軽いけど、長時間の装着はちょっときつい。側圧の調整はヘッドバンドの金属フレームをぐいぐい曲げて行う。豪快。

で、音。最初はとにかく低音ばかり目立つのだが、しばらく使ってるとハイが出てきてバランスが良くなってくる。それでもまあ、低音寄り。でも、この機種の魅力はレンジの広さじゃなくて、ダイナミクスに対する反応。ソースの音圧感が非常にわかりやすい。コンプのかかり具合とかよくわかる。特にドラムのアタックの歯切れ良さがめちゃ気持ちいい。ロック向けっていうレビューが多いんだけど、ボッサなんかのアコースティックなソースもかなりいける。J-POPなんかの中域に音数が多くて音圧稼いでるソースだと、あんまり魅力がわかんないかも。解像度はイマイチなようで実は高い。リバーブのかかり具合とか、かなり生々しい。定位もいいと思う。モニターとしてもかなり優秀なんじゃないだろうか。自分の曲を聞いてるとミックスし直したくなってきて、とっても困る。

いろいろ個性的なヘッドフォンなんだけど、それは意味のある個性で、むしろ正しい方向性。よくある、ワイドレンジだけど作り物っぽく、コンプかけすぎみたいな平板な音のヘッドフォンではない。まあ、装着感だけはちょっとアレだけど。開放型で音はだだ漏れなのも用途を選ぶけど。ぼくは好きだぞ。